先日の五輪エンブレム騒動を始め、最近さらにネットユーザーの声の影響力が大きくなってきているように感じています。
最初の綻びから、デザインに詳しい人の指摘、デザインには詳しくないけれど興味を持った人による膨大なリサーチ、連日の新しいリサーチ結果の発表、追随するマスコミ…。ついにはエンブレムの取り下げという事態に…。
ネットがない時代であれば、せいぜいデザインに詳しい人による疑惑が週刊誌に載るくらいで、一般生活者が疑惑を知る由もなかったことでしょう。
疑惑を知ったとしても、「そういう疑惑があるらしいけど、それで選考をやり直すのに余計な費用を使う必要はないんじゃない?」あたりの意見に大体集約しそうな気がします。
また、ネットの有無関係なく、そもそも五輪エンブレムに意見をするほど思い入れを持つ一般生活者がどのくらいいるのか。少なくとも、私はそこまでの思い入れはありません。
大抵の人は「あー、こういうデザインに決まったんだね」程度で、賛否を表明できるほどの意見は持ち合わせてはいないのではないでしょうか。
こういったことを考えると、最初に、やいやい言い出した人の意見がだんだん市民権を得て、まるで一般生活者の総意のようになる様というのは、非常に恐ろしく感じます。
■ネットユーザーの声が大きくなる仕組み
ネットユーザーの声の影響力が大きくなってきているように感じる理由としては、ネットでの拡散のスピードと量が加速していることが理由として考えられます。
90年代の「東芝クレーマー事件」がよく知られるようになったのは、東芝の対応について糾弾したホームページのアクセス数が徐々に増え、大手マスコミが取り上げるようになってからのことで、騒動がよく知られるようになるまで、半年はかかったようです。
一方、五輪エンブレム騒動は発端となったエンブレム発表が7月24日、取り下げが9月1日ですので、この間1ヶ月強しかかかっていません。
少し前までこういった騒動は2ちゃんねる発が多く、一般生活者にまでは波及しないことが多かったように思いますが、最近は2ちゃんねるやTwitterなどの公開SNSが相互に燃料を補給しながら騒動が拡大していくパターンが多いような気がします。
(1)2ちゃんねるとTwitterでちょっとした騒動になる
(2)騒動のまとめサイトができて騒動に触れる人が増える
(3)2ちゃんねるとTwitterでの騒動がさらに拡大する
(4)アルファルファブロガーなどネット界の有名人が騒動に言及
(5)さらにまとめサイトのコンテンツが増える
(6)ネット上のニュースを取り扱う媒体がニュースとして取り上げる
(7)アルファルファブロガーが騒動内容を記事にする
(8)(7)(8)がYahoo!などの有名ニュースサイトに転載される
(9)テレビのワイドショーが取り上げる
(10)週刊誌がネタにする
五輪エンブレム騒動もリアルタイムで追っていたのではないので実際のところは分からないのですが、今回もおそらくこういった流れで騒動が拡大していったのではないかと思われます。
昨今の騒動のスピードと量が加速している原因は、まとめサイトの存在です。まとめサイトができるまでは、単純に騒いでいるだけで賛否善悪どちらともついていなかったことが、まとめサイトで恣意的にまとめられることにより、騒動の方向性が決定づけられます。
まとめサイトは大体アフィリエイトを目的としているので、PV数を増やすためにより煽情的なタイトルを付け煽ります。
ネットリテラシーが低い層は、原典にあたることをしないので、まとめサイトが原典となり、煽情的な内容を真実として認識します。
騒動が進むにつれ、ネット上での情報量も充実し、真実がどうであるかに関係なくもっともらしさが増していき、多少ネットリテラシーがある層もYahoo!ニュースに取り上げられる頃には、真実として認識するようになります。
テレビのワイドショーに取り上げられる頃には、一コンテンツとして成立するほど情報量が充実しているため、 最初から真実らしいものとして報道され、新たな視点が付加されたり、真っ向から否定されることはもうありません。
こうして、賛否どちらでもなかった人の意見が「真実らしいもの」に侵食されていき、まるで一般生活者の総意のように意見が一致していく。
■ 真実はどこに?
一般生活者は本当の真実を知る術を持たない以上、真実は人の数だけ存在すると言っても過言ではないでしょう。
外部からの情報量が圧倒的に多いこの時代。自分の意見をしっかり持って、安易に流されないよう、情報を取捨選択する力を身につけたいものです。
(中野)